抗HER2抗体薬物複合体(ADC)

「抗体薬物複合体(ADC)」は、最近の乳がん治療を変えた革命的な薬。

イメージとしては**「抗がん剤の宅配便」**。標的を見つけて、そこにだけ抗がん剤を届ける仕組みです。

ADCの仕組み

ADCは3つのパーツから成ります:

ADCの構造

    • 抗体:標的(HER2など)にくっつく部分
    • リンカー:抗体と抗がん剤をつなぐ部分
    • ペイロード(抗がん剤):本来の攻撃力

抗体が標的のがん細胞にドッキング → 細胞内に取り込まれる → リンカーが分解 → 抗がん剤が放出 → がん細胞を破壊。

乳がんの主要なADC

T-DM1(カドサイラ)

  • 標的:HER2
  • ペイロード:DM1(タキサン系のような微小管阻害薬)
  • 用途:早期治療でpCRが得られないHER2陽性
  • 副作用:血小板減少、肝機能異常

T-DXd(エンハーツ)

  • 標的:HER2
  • ペイロード:デルクステカン(トポイソメラーゼI阻害薬)
  • 用途:HER2陽性進行例の2次治療以降、HER2 lowの選択肢にも
  • 副作用:間質性肺炎(要注意)、骨髄抑制、吐き気

サシツズマブ ゴビテカン(トロデルビ)

  • 標的:TROP2
  • ペイロード:SN-38(イリノテカン由来)
  • 用途:TNBC、ホルモン陽性HER2陰性
  • 副作用:好中球減少、下痢

ダトロウェイ(Dato-DXd)

  • 標的:TROP2
  • ペイロード:DXd
  • 用途:ホルモン陽性HER2陰性、一部のTNBC
  • 副作用:口内炎、角膜障害、間質性肺炎

「HER2 low」の革命

エンハーツが大きく変えたのは、

  • **HER2 low(IHC 1+、IHC 2+/FISH陰性)**にも効くこと
  • これまでHER2陰性とされてきた約60%の方に新たな選択肢

詳しくは No.1202 HER2 lowとultra low を。

副作用の共通点

ADCは標的指向と言っても、

  • 抗がん剤を運ぶ
  • 周りに少しは漏れる
  • 「全身性の副作用」もある

ADCの今後

ADCは新薬の開発がもっとも活発な分野のひとつ。

  • 新しい標的(TROP2、HER3、Nectin-4など)
  • より精密なリンカー
  • 副作用の少ないペイロード

数年単位で新しい選択肢が登場しています。

まとめ